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1998年、研究員の黒田は富山事業所のアセテート開発研究所(アセテート工場技術開発課)に赴任すると、今まで培っていたポリエステル繊維の知識をアセテート繊維でも生かしたいと考えていました。アセテート繊維は他の合成繊維とは異なり、機能的な改良のしづらい繊維ですが、米国A社がジアセテート・トリアセテートの複合紡糸技術の特許を出しており、当社でも検討していました。しかし複合繊維をつくるには設備投資費用が高く、費用対効果の点から開発は中止されていました。
黒田は、技術者の課題として、アセテートの複合技術を基礎探索テーマに掲げ、アセテートの複合技術に取り組むことに決めました。「今までポリエステル繊維の複合技術に携わっていたので、十分な知見はある。自分がやらずして誰がやる・・・」。アセテートの複合技術にコストがかかる原因は、複合紡糸設備に複雑な構造を必要とするため。コストを削減するには複合方法を根本から見直すしかありません。従来の複合紡糸技術を改良する方が成功する確率は高かったのですが、「どうせやるなら新技術で挑戦だ」と考えました。実はアセテート工場でのある経験からヒントを見出していたのです。
その経験とは、トリアセテート繊維からジアセテート繊維に品種切り替えをする際、洗浄せず、そのままジアセテート原料を流し始めたことです。トリアセテートとジアセテートは酢酸基の数の違いだけなので、分子構造が殆ど同じです。それなら原料が混じりあった繊維が出てきてもよさそうなものなのですが、ノズルから出てきた繊維はプツプツと切れてしまい、原料が混ざっている様子はありませんでした。それを見たとき、黒田はひとつの送液配管にトリアセテートとジアセテートを流しても、二つの成分が混じりあわずに異なる性質の繊維が張り合わさった状態で出てくるのではと期待したのです。
早速、黒田は三菱レイヨン・エンジニアリング鰍フ竹田に設計を相談。「こんな単純な手法でうまくいくのだろうか?」このときの竹田の正直な感想でした。半信半疑でしたが、設備をつくることは、今までの経験・知識をもってすれば難しいことではない、二人は上司へ試作品の製作依頼を願い出たのです。安価に試作できることもあり、承諾を得ることができました。
従来の複合技術は、原料を別々の送液配管に流し、ノズルの吐出孔に均一に分配するように誘導する複雑な仕組み。新手法ではいきなり同じ送液配管に原料を流し込み、そのまま一気にノズルかの孔から吐出させる単純な構造。周りの誰もが本気にしませんでした。「送液配管で原料が混ざり合ってしまうのではないか」、「複数あるノズルの孔から、どうして均一にジアセテートとトリアセテートが出るのか」と。 |